2011年、15歳の春。

 「高校には行かせてやれない。ごめんね…」

 恐れていた一言を母から告げられた。

 県北に住む由衣ゆいさんは、全日制県立高校の志望校を目指していた。中学の担任も「合格できる」と太鼓判を押してくれた。高校の授業料は無償化され、払わなくて済む。

 しかし、母には制服代や教科書代が捻出できなかった。

 友だちはみんな真新しい制服に身を包み進学する。

 「どうして私だけ制服を着られないの。どうして私だけ」。涙があふれた。

家計簿をつける由衣さん。バイト代から月3~5万円を家族の生活費に充てる=1月下旬

 由衣さんが小学生の時、両親は離婚。母は内職で生計を立て、由衣さんと弟を育ててきた。

 ところが、由衣さんが中学3年になるころ、母に内職を発注していた会社が倒産した。

◇ ◇ ◇

 担任に勧められ定時制高校に進学した。制服がなくて諸費用が少なく、昼間は働いて家計を助けられる。

 それでも「全日制に行きたい」と思ってしまう。

 毎朝、飲食店のアルバイトに向かう途中、制服姿の高校生を目にする。「どうして私だけ…」。また切なさがこみ上げた。

 半年がたち、そんな思いを断ち切ろうとしていたころ。母に言われた。

 「お前はずっと全日制に行きたいって言ってたね」

 「そうだった? ごめんね」。由衣さんは謝った。

 内職の仕事を失った後、体調を崩して職がない母。

 学校やお金の話になると、決まって「だめなお母さんで、ごめんね」と口にする。

 謝られるたび「自分ですべて何とかしなければならない」と思い知らされる。

 もう母の「ごめんね」は聞きたくない。だから先に謝った。 

 由衣さんがいくら働いても食費や日用品に消える。進学する、幼稚園の先生になる、という夢に向けた蓄えは増やせない。

 母に、こう切り出したことがある。「私が高校をやめて働こうか」

 「高校だけは卒業しなさい」。中卒で苦労した母は反対した。

◇ ◇ ◇

 18歳になって、深夜も働けるようになる。昼とバイトを掛け持ちした。

 日々の睡眠は3時間。頻繁に立ちくらみや頭痛に襲われる。登校しても授業に集中できない。

 「なぜこんな働くの」「もう仕事は嫌」。精神的にも追い詰められて、学校にもバイトにも行けず、家に引きこもった。

 「このままじゃ卒業できなくなる」

 夢の実現どころではなくなっていた。

(文中仮名)