夫と食卓を囲む塩尻真由美さん。結婚当初は、普通の妻の姿が分からなかった=12月29日、宇都宮市内

 ありふれた食卓。そこにあるぬくもりを今は、かみしめられる。

 ポークソテー、サラダ。レンコンのきんぴらに漬物。あとは、ごはんとおみそ汁。

 12月29日夜、宇都宮市郊外の住宅地。白い壁の平屋に若い夫婦は暮らす。

 市内のNPO法人の仕事から帰った塩尻真由美しおじり まゆみさん(32)は手際よく手料理を並べる。「うまっ」。夫(34)が笑顔を浮かべた。

 結婚して3年余り。「当たり前」を知るまでに、真由美さんは遠回りした。

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 「家事は完璧に。世間の奥さんみたいに」

 新婚のころ、化粧品販売会社でフルタイムで働いていた。

 いつも朝7時には床を離れ、出勤前に朝食の支度、洗濯を済ませる。すべての部屋に掃除機をかけ、お風呂もトイレも磨き上げた。

 立ち仕事で疲れた足を引きずり帰宅した夜8時すぎ、夕食作りにも手を抜かない。おかずだけで7、8品。デザートも付けた。

 就寝まで落ち着いた時間は持てなかった。

 市内の児童養護施設で育った。親の顔、家庭の記憶はない。

 「自分は普通じゃない」と思って生きてきた。その私が妻。「彼に迷惑をかけてるかも」。不安にさいなまれ、自らを追い込んでいた。

 結婚して半年ほどたったある日。

 夕食の支度をしていると、夫が少し申し訳なさそうに言った。

 「カップラーメンを食べたいんだけど…」

 驚き、ちょっぴり腹を立て、そして拍子抜けした。

 夫が言葉をつなぐ。「たまに簡単なものも食べたい。ていうか、そんなに頑張らなくていいよ」

 ずっと、しんどかった。すっと胸のつかえが取れた気がした。

 「世間の奥さん」の姿さえ知らなかった。それでも探そうとし、もがいていた。

 「今思えば笑っちゃう。でも普通が分からなかった」と振り返り続けた。「みんなが持っているものを持たない。それって貧しい」

 「お金がない」から生じる「相対的貧困」。「影響はお金だけにとどまらないと思う」

 分岐点は3歳の時。

 母、祖母、きょうだいと暮らしていた。母は毎晩、仕事で家にいなかった。

 「お友だちがいっぱいいるところに行く?」。母に手を引かれ、施設を訪れた。同年代のお友だちと夢中で遊んだ。気がつくと、母の姿が見えない。

 当たり前のはずのことが次々と失われるのは、それからだった。

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 お金がないために、本来得られるはずの人とのつながりや機会、文化的活動が損なわれ、進学や就職の選択が制約される…。子どもの可能性を奪う「相対的貧困」とは何か。その影響は。第1章は、現代の貧困の中で子ども時代を生きてきた人の姿から描く。