【紙面版より長い、ロングインタビューです】

 ―ツイッターを今のように本格的に活用し始めたのはいつ頃ですか。

 「2011年に東日本大震災があり、情報が錯綜し、これは大変なことだなと痛感しました。我々自身がどう物事を判断するのか、ということを、究極的に迫られた時期だったと思います。それまで、たまに開けていたというレベルのツイッターを見てみると、いろいろな情報が出てくる。いろいろな情報が出てくるので、もっときちんとした情報を取りたくなり、検索という機能を使うようになりました。すると、実は『ツイッターって、検索が命だ』ということに気付かされて。ほかのSNSと比べて検索に対して非常に強いなという点に魅力を感じました」

 ―どのようにツイッターを活用していったのですか。

 「趣味の音楽などについてつぶやいたりもしますが、『エゴサ』(エゴサーチ=インターネット上で、自分の名前などを検索し、評価を確認する方法)が主です。ツイッターを本格的に使い始めた2011年ごろは、いまほどツイッターの利用者もいなかったし、利用している人たちはアーリーアダプター(新しいサービス・商品を比較的早い段階で使い始める人々)の若い人たちだったと思います。弊社のユーザーは年輩の方が多いので、ツイッターユーザーとはあまり重ならないと思っていました。でも、試しにツイッターで検索してみると、意外と『岩下の新生姜』とか、『岩下のピリ辛らっきょう』を話題にしてくれている方が多くて驚きました。とりわけ『新生姜』は毎日、20件ぐらいのつぶやきがありました。しかも、多くは『美味しい』とか『好きだ』とか、中には『食べてみなよ』と仲間に薦めてくれる方もいて、全体的に好意的なつぶやきが多く、フォロワーにも拡散してくれていました。最初はそんな様子を見ているだけでしたが、そのうち、この人たちに一言お礼が言いたくなって。ある日、思い切って見ず知らずの人にお礼のツイートをしてみたのです。

 ―岩下社長から直接、お礼のツイートが届いた人は驚いたでしょうね。

 「とても喜んでくださり『社長から返信をいただけるなんて、ますます商品のファンになりました』と返信してくれました。それがまたうれしくて、毎日検索をかけて、弊社商品について発言してくれているユーザーの方に感謝の言葉を贈るようになりました。お礼のツイートをしてフォローしてもらい、うれしいのでフォローバックするということを繰り返していって、いま、フォロワーは3万人台になっています。昔はお礼のツイート(リプライ)をしていましたが、数が多くなってしまって…。その代わり今は心を込めて『いいね』しています」

 ―多くのツイートに応えるのは、とても手間や時間がかかる事だと思いますが。

 「2013年ごろまでは、自分のやっていた活動がほとんど全部、リプ(リプライ=文章での返信)だったのですよ。今、考えると異常な状態ですよね。どんなに時間があっても足りません。でも、その方法でまず基礎の人間関係をつくって。途中であまりにも数が増えてしまい、全員にリプは無理になってしまったけれど、一日に数百件、つぶやきをいただけるような関係ができあがっていきました。ツイッターの拡散力というのは、有名人を介して一気に広がるというものもあるのでしょうけれど、じわじわと、本当に好きだという人が毎日のようにつぶやいてくれることで広がっていく形もあります。そういう緩やかな変化が私のツイッターにはありました」

 ―エゴサーチをすると、悪い評価や一方的な意見を目にすることもあるかと思いますが。

 「悪い話題や印象の良くない話などが出てくると、正直、気にいらないですよね。そういうものがいつまでも残っていると余計に。でも、それはこちらにも原因があって、そういう悪い情報よりも、どんどん新しい情報、いい情報を提供していって、それらを取り上げてもらえれば、古い情報はどんどん上書きされていきますから。そういう風にがんばろうと思いやってきました」

 ―ツイッターから新たな試みも生まれました。

 「2012年にはツイートの中から、厳選した約300人のファンの新生姜のレシピを転載させてもらい『We Love 岩下の新生姜 ツイッターから生まれたFANBOOK』を出版しました。ファンの方々は当社の商品を素材として使った新しい料理の提案を、ツイッターで公開し、それを共有していました。その新しさに感動することもありました」

 ―本を出版した当時は、どのくらいのフォロワーがいたのですか。

 「約6千人のフォロワーがいて、ツイッター本格開始から約1年半で3万ツイートに『いいね』しました。そこから5年たった現在は、フォロワーは12万5千人。『いいね』は66万ツイートにしました」

 ―一日にどのくらの数のツイートに目を通すのですか。

 「昨年、11月11日を新生姜の日に設定しイベントも行ったので、その日はファンの方のツイートが多く、一日で2100回『いいね』しました。翌日もイベントが続いていたので、800ぐらい『いいね』しました。昨年5月はテレビに取り上げてもらったり、ミュージアムでイベントが多かったりしたので、1カ月で3万1千回『いいね』。つまり、ほぼ毎日、1千回、『いいね』しているという状況でした」

 ―社業にも追われ忙しい時間の中で、いつツイッターに目を通しているのですか。

 「会議の休憩時間や、移動時間。隙間時間という隙間時間で、ツイートを見るという作業をやっています。出張の際、新幹線の東京~新大阪間でずっとやっていたこともあります。それぐらいやらないとすぐに溜まってしまって。ただ、今は数も増えてきて、『やり方としておかしい状況に至っているのでは』と感じるときもあります。これ以上数が増えたら、やり方を変えなければ無理かなとも正直思っています」

 ―ただ、それだけの時間を割いてでも、多くのツイートに『いいね』を返してきました。

 「同じような効果を得られる、もう少しうまいやり方もあったのかなとは思います。ただ言えるのは、一人一人にリプこそ返せないけれど、シンプルに『いいね』や『リツイート』みたいな事でも、ボタン一つで、血が通った交流ができているような感覚はあります。そういった作業を通じて感じている事のひとつは、量が持つ熱ですね。皆さんに日々愛されているという状態を、実感、共有できるのがいいですね」

 ―2015年にオープンした新生姜ミュージアムは、ツイッターで結び付きを持った人たちに恩返しをしたいという思いがあったと聞きました。

 「広告宣伝にタレントを起用したこともありますが、その費用はとんでもない金額ですよね。ツイッターでは皆さんに無償で宣伝していただいていて。本当にありがたいけれど、何とも申し訳ないと思っていました。もちろん一番の恩返しはいい商品を作り続けることだと思っていますが、何か特別感があるものも返せればと」

 ―高さ5メートルの顔が出せる新生姜のオブジェ、「新生姜の部屋」、「ジンジャー神社」などユニークなアトラクションがそろっています。

 「このミュージアムは、お世話になった人たちを喜ばせたいという思いからできています。ファンの皆さんはツイッターを通じて、新生姜というものが持っている何か、あるいは新生姜を通して岩下食品、ないしは私が提供してきたものに対して、反応してくれてきた方々です。何をすれば皆さんが喜んでくれるのかという事に関しては、ある程度の体感はあったつもりです。弊社が全部、思いついているように見えるかもしれませんが、実はお客さまの声、誰か一人の声というのではありませんが、多くの声の集合体から形作られているミュージアムです」

 ―商品開発にも、ツイッターが活躍する場面がありそうですね。

 「お客様の立場に立って考えるというのがマーケティングの基本ですが、その作業にはツイッターはきわめて有効に機能すると思います。例えば、これまでもスーパーなどお得意先の声を必死に聴いてきましたが、最終消費者の声は、店頭販売時の聴き取りや統計調査、お客さま相談室へのご意見で聴くのがほとんどでした。お客さま相談室に寄せられる声は月100件ほどですが、ツイッターでの商品の声は毎月4千件にもなります。商品の開発や改良、販売促進に、これらの声を生かしています」

 ―昨春、ある会社の社長が「採用面接では『わたしのツイッターを読んでいますか?』という質問をするようにしている。読んでいない人は採用しない。社長のツイッターを確認するのは一般常識」とツイートし、それを契機にネット上で「就職活動中の学生は企業や関係者のSNSを見るべきか」という議論が広がりました。その際、岩下社長はアニメ「魔法少女まどか☆マギカ」に登場する、魔法少女・暁美ほむらのコスプレをした写真をアップし、「SNSは楽しくて自由でパーソナルな世界」とコメントし話題になりました。

 「SNSは楽しく使うのが一番で、窮屈に感じるようなものにはなってほしくないと思っていたので投稿しました。コスプレの写真を上げたのは、見るとちょっと力が抜けるような、笑ってしまうような写真もあった方が、考えがより強調されて伝わるかと思ったからです。5、6年前に新ショウガのファンのコスプレーヤーさんと親しくなって、そのメンバーたちがとても素敵だったのです。オフ会みたいな席上で意気投合して盛り上がって。『社長もやってみてよ』と言われて約束しちゃったのが運の尽きで…。撮影したからにはいつか、(ツイッターに)上げようと思っていて、ちょうど、この話題にはいいかなと思い、日の目を見ることになりました」

 ―就職活動中の学生のSNS利用については。

 「学生が入社したいと思う企業を研究することは、大切です。その企業に関わるSNSアカウントをチェックするのは、企業研究の一環になると思います。だから、やはりSNSを活用するのは有効な手法ではないでしょうか。ただ、入社した後となると別。『仕事で関わる人のSNSを見なくては』となると窮屈ですよね」

 ―「SNSは自由であるべき」という思いがとても強く感じられます。

 「SNSに限らず、野放図な自由というのはいろんな問題を起こす。それは分かっていますが、だからといって本来、生まれたときには自由である人間が、さまざまな社会制度の中で、縮こまって生きていくようになるのが良い事だと思えません。簡単に自由と言いますが、歴史の中でどれだけ多くの人が血を流して、この自由を獲得してきたのか。そのことに思いをめぐらせると、しっかりと守っていかなければならないと心底思わされます」

 ―なぜ、暁美ほむらのコスプレだったのですか。

 「私も今でこそのびのびやっていますが、当時は何をやっても、進んでは振り出しに戻るようなことの繰り返しで…。ジタバタすればするほど、周りにも良いことがないという状況でした。『魔法少女まどか☆マギカ』の中の暁美ほむらも、主人公のまどかを救おうとすればするほど、まどかに因果を募らせてしまっていました。そこに感情移入しました」

 ―コスプレのツイートをはじめ、社員からご自身のツイッターへの反応はありますか。

 「社員から話題にされることはなかったのですが、こちらから『見た』と聞くと、みんな知っている様子でした。怖いですよね。でも、意識が高い社員ほど、私のツイートを見ているかなとは思っています。話題にはされませんが、いい意味でスルーされている感じです」

 ―最後に、ツイッターでつながっている人たち、これからつながるかもしれない人たちにメッセージをお願いします。

 「2010年にツイッターを始めてから約8年。そこで知り合ったお客さまの声で、ミュージアムまで作ってしまいました。人間関係を新しく作っていくという点で、SNSは面白いツールだと思っています。でも、やりすぎには注意しましょう。私もいつまでできるかわかりませんが。やれる限り頑張って、お客さまとともに、楽しい社会をつくりたいと思っています」