□ 足尾(上) 古河機械金属

 日光市足尾の中心部を見下ろす山腹に、巨大な「ダム」の堤防が横たわる。閉山後も鉱山内から排出される重金属を含んだ沈殿物を集積する「簀子橋堆積場」(幅337メートル、奥行き800メートル)だ。いわば旧足尾銅山の最終処分場。決壊という事態に陥れば、渡良瀬川に流れ、鉱毒の惨事が繰り返されかねない。

 「365日24時間体制で、安全確認を徹底している」。古河機械金属足尾事業所の山崎義宏副所長(51)は6月中旬、堤防から10数メートル下に広がる赤銅色の泥面を見渡しながら、こう力説した。

 管理を担当する従業員は7人。毎日の水質検査のほか、地震発生や大雨の際には必ず駆けつける。現場責任者の坪内哲さん(62)は「梅雨時期は天気予報とにらめっこだよ」と苦笑いする。

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 明治政府が1897年に発令した鉱毒予防工事命令を受け、創業者の古河市兵衛は鉱山排水の浄化処理施設を3カ所建設した。そのうちの一つ「中才浄水場」は改良されながら、今も稼働する。

 鉱山を1度開発すると、金属を含む地下水が半永久的に流出し続ける。この排水を浄化するため、同浄水場で石灰水によるろ過や沈殿処理を行い、川に放水している。下流には取水口があり、安全性の確保は不可欠だ。

 「『古河』というだけで悪者に見られがちだが、(鉱毒防止を目指した)田中正造さんと気持ちは同じ」。現場を指揮する中山孝志環境保安課長(66)は、業務への心構えをそう明かす。そして、自身に言い聞かせるように力を込める。「悪い水を絶対に流さない決意だ」

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 同事業所は製錬事業を停止しており、水質浄化や堆積場の保全など公害予防対策が主な業務。年間4~5億円を投入する。非生産部門への支出額としては膨大だ。仮に倒産すれば、税金で賄わなければならない。

 それでも、下流域の住民の中には「上流」への不安をぬぐえない人もいる。

 東日本大震災では、休止中の「源五郎沢堆積場」の表土が滑り落ち、渡良瀬川から環境基準を超える鉛が検出された。この堆積場を巡っては、55年前に決壊し、下流に鉱毒被害を出した経緯があった。

 同事業所は不安の払拭に向け、年間800人を超える視察者の受け入れや、安全情報の提供に取り組む。久能正之所長(56)は訴える。「公害対策に永遠に取り組むことは、(原因企業の)わたしたちの宿命。自らに高いハードルを設け、全力を挙げたい」

 1973年の足尾銅山閉山から40年。「公害の原点」といわれる足尾では現在も、鉱毒事件という「負の遺産」と向き合う日々が続く。