付きまとう「異常」の不安

低線量被ばくの将来は…

早朝、濃霧の戦場ケ原で獲物を待つフクロウ。“森の哲学者”を数年前に見た時も、霧の朝だった

拝啓 トーマス・ブレーク・グラバー様

 

 セシウムなどが放つ放射線を浴びることを「被ばく」といいます。福島では、研究者が被ばくの影響と分析する「異常」が発表されてきました。

 ・野生サルの白血球や赤血球が減った

 ・幹が真っすぐ伸びないモミの木が増えた

 ・チョウ「ヤマトシジミ」の羽が小さくなった

 これはあくまで一部です。個体数の減少と関連付ける発表もあり、栃木県北部では「オオタカの繁殖成功率が下がった」と報告されました。

 原発に近い福島県飯舘村のため池では、2013年に捕ったコイの白血球が明らかに少なく、体内組織の崩壊も進んでいました。14年になってからは栃木県東部の池のコイでも同様の傾向が認められ始めました。調査した東京大の鈴木譲(すずきゆずる)名誉教授(魚類免疫学)は「さらに多角的な検証は必要だが、栃木のコイでは初期被ばくの影響が3年後に現れた可能性も否定できない」と指摘します。

 

 福島では住民の避難や耕作放棄地の拡大など、劇的に環境が変わりました。現段階では本当に「異常」が被ばくの影響かどうかは分かりません。被ばく総線量が十分に検討されていないとして、研究に疑問を呈する専門家がいるのも事実です。

 被ばくの影響の度合い「放射線感受性」は種によって大幅に異なります。感受性が最も高い(放射線に弱い)のはヒトを含む哺(ほ)乳類。フクロウなどの鳥類やマスといった魚類、両生類も感受性が高いことが分かっています。植物ではモミやスギなど針葉樹が高く、チェルノブイリ事故では周辺の針葉樹林が高線量で枯死しましたが、広葉樹のシラカバは生き残りました。

 

 チェルノブイリや福島よりもさらに低線量の奥日光では、被ばくの影響とされる現象は報告されていません。いや。そもそも調査がほとんど行われていないとお伝えしなければならないのです。

 哺乳類は繁殖行動に被ばくの影響が出やすいといわれます。奥日光には国の特別天然記念物ニホンカモシカや天然記念物ニホンヤマネをはじめ、本州を代表する哺乳類がほぼ全て生息しています。彼らに何も影響がなければよいのですが…。

 被ばくの影響は、次世代以降の子孫に現れることもあることが分かっています。あの日から、私たちの心配の種は尽きることがありません。




グラバーメモ

■ヒト以外の放射線防護

 1895年のエックス線発見以来、放射線防護の研究は基本的にヒトだけを対象としてきた。ヒト以外の生物の防護の枠組みが整備され始めたのは21世紀に入ってからだ。

 ヒトは最も放射線に弱いことから、国際放射線防護委員会(ICRP)は「ヒトが防護されていれば、他の生物も十分に防護されると信ずる」との認識を示してきた。しかし環境保護意識の高まりを受け、環境影響の研究の必要性が叫ばれ始めるようになり、ICRPは2007年勧告でヒト以外の防護の枠組みを初めて提案した。

 環境中の生物は多種多様で、全ての種で影響を評価することは不可能。そこでICRPは、放射線影響を判断する際の基準となる12種の「標準動植物」を定め、それぞれに対し、被ばく線量率の影響を考慮すべきかどうかを判断する目安「誘導考慮参考レベル」を示している。

 例えば、ネズミの同レベルは1日当たり0・1~1ミリグレイ(グレイは吸収線量の単位)。1~10ミリグレイで繁殖率低下の可能性、10~100ミリグレイで罹患(りかん)率上昇や寿命短縮の可能性があり、100ミリグレイを超えると寿命が縮むとされる。