効果見えず 進まぬ除染

森林にとどまるセシウム

朝方、千手ケ浜に向かう。森に注ぐ光に魅了されながら、不意に畏れを抱き、思わず歩を止めた

拝啓 トーマス・ブレーク・グラバー様

 

 天然林が広がる奥日光には、多様な樹種が混在しています。紅葉の季節。赤、黄、オレンジと山肌がモザイク模様に美しく染まるゆえんです。

 代表種はミズナラです。あなたたち欧米人が「森の王様」と呼ぶヨーロッパナラの仲間で、標高800~1600メートルの落葉広葉樹林に広く群生します。標高1600~2300メートルは常緑針葉樹の分布域です。

 あの事故で汚染された場所の多くが森林でした。福島は県土の71%が森林、日光は87%を占めます。セシウムは最初に樹冠(樹木上部の枝や葉)に付着し、落葉や降雨に伴い、林床へと移っていったといわれています。

 一方で事故があった3月。落葉樹林は葉がない時期なので、奥日光の広範囲ではセシウムが地表や樹皮に直接付着したと考えるのが自然です。

 

 事故5年の今、森林のセシウムは9割以上が地表から深さ5センチ以内の表層に集中しているようです。土壌中の鉱物にくっつきやすいため、地中深くに下がっていかないことが分かってきました。

 おのずと、表層と関係する動植物が影響を強く受けます。例えば、餌の落ち葉と一緒に土を摂取するミミズは汚染が著しく、ミミズを捕食するネズミやフクロウなどの汚染も懸念されています。

 山菜など林産物では、浅い場所に根を張るコシアブラが特に深刻。土から養分を吸う「菌根性」の野生キノコも濃度が高い傾向にあります。県民が愛してやまないチチタケも菌根性の一つです。

 

 3日後の4月26日。あなたの古里など欧州を広く汚染したチェルノブイリ原発事故から丸30年を迎えます。原発近くの樹木は根からセシウムを吸い込み、事故後10~20年後に濃度がピークに達しました。欧州と土壌の性質が違う日本では吸収が少ないともいわれますが、油断は禁物でしょう。

 森林は必要な栄養を循環させる仕組みがあるので、取り込んだセシウムをとどめやすい構造があります。大雨が降っても森林外に流出するのは、森林全体のセシウム沈着量の1%にも満たないそうです。

 湖と同様に、森林の除染も費用対効果が低いといわれます。さらに除染は立木の伐採や落ち葉の除去を意味するので、作業は土砂流出や生態系の破壊につながるというジレンマも抱えています。




グラバーメモ

■樹木内の汚染濃度推移

 樹木に入り込んだセシウムの動きや樹種、部位別の蓄積の違いなどの汚染状況も明らかになってきている。

 汚染濃度が最も高いのは幹を覆う「樹皮」。原発事故当年から調査を続ける宇都宮大農学部付属演習林(塩谷町船生)によると、演習林のコナラの樹皮は400~600ベクレル(乾燥重量1キログラム当たり)で推移し、幹の濃度を大幅に上回り続けた。コナラは成長に伴い樹皮が剥がれ、セシウムを林床に移行させる可能性がある。

 樹幹の部位別では、一般的に樹皮に近い「辺材」が、中心部の「心材」よりも高濃度の傾向がある。反対にスギはセシウムが徐々に心材に移ることが確認されており、事故2年後から心材の濃度が上回るようになった。同演習林林長の飯塚和也(いいづかかずや)教授(森林資源保全学)は「スギは成長とともにセシウムを内部に閉じ込め、森林生態系の外に流出するのを防ぐ役割を担っているとも言える」と指摘した。

 樹木の濃度は空間線量率に比例し、原発から約40キロの福島県川俣町のスギでは、昨年9月の同大の調査で樹幹から1千ベクレル前後のセシウムが検出されたという。