希少野生鳥獣の体内にも

生態系循環する放射性物質

遠方の木の枝に約3時間とどまっていたオオワシが飛び去った。林の中、木と木の間から一瞬、その勇姿をのぞかせた。中禅寺湖畔近くで

拝啓 トーマス・ブレーク・グラバー様

 

 原発事故は野生動物にも暗い影を落としています。日光のシカでは、筋肉中の放射性セシウムの濃度は下がりつつあるものの、国の基準値(1キログラム当たり100ベクレル)を超えることは珍しくありません。

 シカは汚染された草木を食べてセシウムを取り込むようで、餌の違いが濃度に反映される傾向があります。2013年には日光のシカ肉から1000ベクレル超が検出されたこともありました。セシウムは臓器など全身に蓄積することが分かっていますが、その数倍も高い濃度なのがふんや胃の内容物です。これは消化や吸収の過程でセシウムを濃縮し、排出することを意味します。宇都宮大の小金沢正昭(こがねざわまさあき)名誉教授(野生鳥獣管理学)は「ふんに濃縮されたセシウムは土壌に移り、植物に吸収される形で生態系を循環するのだろう」と考えています。

 奥日光では最近、イノシシも見かけられるようになりました。セシウムを吸着しやすい土壌を餌と同時に飲み込むので、汚染が深刻な種の一つです。

 

 シカとイノシシは県が定期的に測定しているため、汚染の推移がある程度分かっていますが、他の野生動物ではほとんど把握できていません。

 例えば、森林生態系の頂点に君臨するツキノワグマ。東京農業大の調査では、足尾地区のクマのふんから約4000ベクレルもの驚くべき値が検出されたことがあります。初夏に餌のアリをなめ取る際、土も大量に摂取したことが原因とみられています。震災5年の今も福島や群馬県では、クマ肉の濃度が軒並み国の基準値を超えています。日光もその恐れが高いですが、栃木県はクマの生息密度が低く、むやみに捕獲できないこともあり、2011年秋以降は県による測定は一度も行われていないのです。

 

 クマと並び食物連鎖の頂点にいるのが猛禽類(もうきんるい)。奥日光にはオオワシとオジロワシが越冬で飛来し、汚染が続く中禅寺湖のマスやシカの死体を食べます。いずれのワシも国の天然記念物で絶滅危惧種。調べるすべはありませんが、この地で少なからず汚染されるのは疑いようのない事実です。極東ロシアなど繁殖地で彼らが土に還れば、セシウムはその地に拡散するのかもしれません。

 セシウムの中には、事故直後の線量が半減するまでに約30年を要するものもあります。クマやワシの寿命は25~30年なので、事故5年のことし生まれる個体が天寿を全うするころにようやく半分になるのです…。




グラバーメモ

 ■汚染が響き狩猟離れ

 放射能汚染で東北や関東など9県で、野生鳥獣の肉が国の出荷制限対象となっている。本県では2011年12月からシカとイノシシ肉の制限が続き、県は自家消費の自粛も要請中。汚染は狩猟者の猟場離れも生じさせた。

 本県の狩猟者登録数は10年度3819人に対し12年度は3212人で、過去20年で最大の減少幅を記録した。

 12年度に狩猟免許更新者1126人を対象に行われた意識調査(回収率98%)では、「汚染の影響で出猟を取りやめた地域がある」との回答が全体の25%。同様の調査があった19県の中で、福島の45%に次ぐ高い数字だった。自治体別では日光市の影響が大きく、原発に近い福島県浜通りと同程度に狩猟者から敬遠された。野生鳥獣の汚染濃度が比較的高かったことが理由とみられる。調査に関わった県林業センターの丸山哲也(まるやまてつや)特別研究員(48)は「個体数調整の際に駆除したシカの肉を持ち帰る狩猟者は減ったまま。汚染の影響は続いている」と話す。

 一方で15年度の狩猟者登録数は8年ぶりに前年を上回った。報奨金の充実やPR強化が奏功したとされる。