忍び寄る温暖化の影

中禅寺湖「完全結氷」幻に

小田代原の北西、外山沢の源流付近にある庵滝。静かな山中で、ひっそりと自然の造形美が育まれていた

拝啓 トーマス・ブレーク・グラバー様

 

 暖かな春の日差しが何よりうれしい季節となりました。宇都宮では3月28日、ソメイヨシノの開花が宣言されました。でも、年平均気温が6~7度低い中禅寺湖畔では本格的な春の訪れはもう少し先。桜の便りは例年5月上旬にオオヤマザクラが届けてくれます。澄んだ空と男体山を背景に薄桃色のかれんな花が咲く様子も見応えがあります。

 奥日光が最も冷え込む1月、湖畔の平均気温は氷点下4度。標高が高くなるほど気温は下がるので、戦場ケ原は氷点下7度で北海道旭川市とほぼ同じです。梅雨もないといわれています。

 水深が浅い湯ノ湖の結氷は例年のことです。中禅寺湖では強く冷たい西風が吹きつけると、白波のしぶきがいろいろな形の氷の芸術品を作り出し、写真愛好家の格好の撮影スポットになります。

 

 奥日光は霧がともて多く、その出現の仕方も変わっていることで有名です。

 いろは坂や華厳の滝周辺が濃い霧で視界が悪くても、戦場ケ原方面に向かうと、一気に晴れることがよくあります。これは関東平野の方向から湿気を含んだ気流が男体山などにぶつかって急上昇することが原因のようです。中禅寺湖の水温なども霧の発生に影響するといわれています。濃霧の中にいると、夏場でもひんやりとするほどです。

 

 そんな冷涼な奥日光にも変化が訪れつつあるようです。今季は山奥の秘滝「庵滝(いおりだき)」の氷瀑は、例年にも増して小さいそうです。暖冬の影響ともいえるのかもしれません。

 長い目でみれば、地球全体の気温は徐々に上昇しています。20世紀後半、産業が活発化するにつれて「温室効果ガス」が発生し、温暖化が進んだといわれているのです。奥日光では最も古い記録が残る1944年の年間平均気温は5.7度でしたが、徐々に上昇していて2015年は7.8度でした。

 広大な中禅寺湖でも湖面の完全結氷が数十年に一度あり、シカやクマが湖上から対岸に渡っていたという目撃談もあります。あなたも聞いたことがあるかもしれませんね。

 直近では1984年が最後。それからずっと結氷の兆しすらなく、もう二度と見られない「幻の光景」になってしまったともいわれています。




グラバーメモ

■条件良好な無人観測所

 日光市中宮祠にある無人気象観測所は、地球温暖化を研究するために重要なデータを得られる国内有数の施設として有識者から評価されている。

 無人観測所の環境維持を目指すボランティア組織「気候観測を応援する会」によると、全国の観測所約1300カ所のうち、環境が比較的良いのは「20カ所程度」。内陸部は中宮祠を含めて「3カ所しかない」という。また、管理が不十分だと周辺の樹木が成長し風速が弱まるなどの事態を招き、観測の誤差が生じる恐れがある。

 中宮祠は周囲に新たな建造物が建つなどの劇的な変化がなく、観測条件である「日当たりと風通しの良さ」が保たれ、草刈りも定期的に行われているという。同会の近藤純正(こんどうじゅんせい)東北大名誉教授(気象学)は「都会はビルが集まった影響などを大きく受ける。奥日光では均質で良好なデータが得られるので、地球温暖化による温度上昇の度合いを正確に測定できる」などと評価している。

 同観測所は1943年開設。97年に無人化された。正式名称は「日光特別地域気象観測所」。