代謝遅く「蓄積」の連鎖

海水魚と条件違う淡水魚

中禅寺湖上の舟が、風波に揺れる。魚や水質の検査には、国や県の研究者、漁協などが携わっている

拝啓 トーマス・ブレーク・グラバー様

 

 事故から4年半が過ぎてもなお、中禅寺湖では測定するほぼ全ての生き物からセシウムが検出されます。

 あなたが追っていたマス類の汚染は、特に深刻です。

 放射性物質の量を表す単位をベクレルといいますが、事故翌年に国が食品の安全確保のために決めた基準値「1キログラム当たり100ベクレル」を超えるマスがいまだに見つかっています。なので、その年の4月からワカサギ以外の魚の持ち出しは禁じられたままです。栃木県では昨年6月、かつて東洋一の銅山があった足尾地区の渡良瀬川上流域でイワナへの出荷制限が解除され、中禅寺湖が最後に残りました。

 

 生き物は体を維持する「代謝」という機能でセシウムを排出します。しかし湖や河川にいる「淡水魚」は代謝が遅く、セシウムを体に蓄積しやすいようです。

 塩分が豊富な海にいる魚と比べて、淡水魚は、生きるために必要な塩分をなるべく体内にとどめようとします。

 厄介なことにセシウムは、自然界に存在している塩類の一つ「カリウム」と性質が似ていて、体はそれらを区別できません。それゆえ、淡水魚はセシウムを排出しづらく、汚染濃度がなかなか下がらないそうです。

 原発に近い福島県沖には、高濃度に汚染された膨大な量の水が流れ出したこともありました。しかし、今では魚からセシウムはめったに検出されません。太平洋に拡散して海水の汚染濃度が薄まっただけでなく、海水魚が塩類を積極的に排出することも一因とみられています。

 中禅寺湖の魚は春から夏にセシウム濃度が下がり、秋から冬は横ばいとなる傾向があります。これは水温が高くなり、代謝速度が増したことによる影響とも言われます。

 

 増養殖研究所の調査で、中禅寺湖の魚の汚染は、餌の汚染が主な原因と分かってきました。魚が体表やえらから取り込むセシウムは極めて少ないと考えられています。研究員の山本祥一郎(やまもと・しょういちろう)さん(48)は「淡水魚の代謝は遅いが、環境の汚染がなければ体内のセシウム濃度は急激に下がるはず」とみています。

 中禅寺湖では、大型マス類を頂上とする食物連鎖のピラミッドが確認されています。湖が閉鎖的な構造のため水や泥の汚染が長引き、プランクトンなどの微生物がセシウムを取り込んで、それらを食べる小型の魚の体内にも入ります。こうしたサイクルによって、事故後に生まれたマスたちも汚染が続いてしまっています。




グラバーメモ

■福島の魚の現状

 震災5年を迎えた福島県では、海水魚からセシウムはほとんど検出されていない。一方で湖や河川など内水面では、検査数が海より大幅に少ないにもかかわらず、「1キログラム当たり100ベクレル」を超える魚が時折見つかっている。

 福島県水産試験場によると、事故直後に測定された同県沖の水産物の50%以上が100ベクレルを超えたが、2014年6月に1%を割り、15年4月以降は1体も見つかっていない(福島原発港湾内を除く)。セシウムの不検出率も約90%という。

 淡水魚はどうか。例えば全面禁漁が続く阿武隈川水系では、100ベクレル超が15年(9月末時点)は全体の2・6%。水産庁によると同年に9回イワナやヤマメが100ベクレルを超えた。猪苗代湖のウグイや沼沢湖のヒメマスは数十ベクレルで推移し、原発に近い「帰還困難区域」内の請戸(うけど)川では1千ベクレル超のアユが昨年の時点でも確認された。

 福島大環境放射能研究所の和田敏裕(わだとしひろ)准教授(魚類生態学)は「福島に限らず、汚染された地域の淡水魚の濃度は数十ベクレルという状態が長く続くだろう」と指摘している。