閉じた湖 長引く宿命に

線量低下 ただ待つしか

周囲の山々の中央に水をたたえる中禅寺湖。空を映し込み、その色合いは刻々と変化していく

拝啓 トーマス・ブレーク・グラバー様

 

 放射性物質が拡散されたことで、東北や関東にある多くの湖が汚染されました。残念ながら中禅寺湖は、他の湖より影響が長引くと予想されています。

 最大の要因として、その構造が挙げられています。

 中禅寺湖の最深部163メートルあり、国内7番目の深さ。すり鉢に似た形で、貯水量の多さが特徴の一つです。

 ですが、水が外に出て行く河川は、華厳の滝につながる大尻川だけ。水が完全に入れ替わるまでに必要な時間を示す「滞留時間」は約6・5年と非常に長いのです。25倍の貯水量がある琵琶湖(滋賀県)が約5・5年、あなたの古里、スコットランドにある英国最大のネス湖は6倍の貯水量で約2・8年ですから、中禅寺湖は水の交換が遅い「閉鎖的な湖」と言われています。水と一緒にセシウムを安定的にため込んでいるとも言えるのですが。

 

 中禅寺湖は、生き物に必要な栄養素が乏しい湖です。学問上の分類では「貧栄養湖」と呼ばれます。これは山間部の湖に多く、水の透明度が高い半面、微小な生物「プランクトン」の数が少ないとされています。

 湖のプランクトンは、死ぬと底に落ちていきます。体に取り込んだセシウムも一緒に沈むので、プランクトンが多ければ多いほど、セシウムも湖底の泥などにたくさん吸着されることになり、水の汚染濃度が速やかに下がると考えられています。

 「中栄養湖」に分類される赤城大沼(前橋市)では、一日に中禅寺湖の約10倍のプランクトンが沈むそうです。この湖ではセシウム濃度の低下に伴い、昨年秋から名物のワカサギを釣って持ち帰れるようになりました。中禅寺湖のワカサギは一度も禁漁になっていませんが、マス類の制限は続いています。「中禅寺湖では大半のセシウムが今も水に溶けて存在しているのだろう」。各地の湖を調べている国立環境研究所の研究員野原精一(のはら・せいいち)さん(57)は、そう分析します。

 

 緩やかにですが、湖水のセシウムは減っています。湖畔に研究施設を持つ増養殖研究所によると、湖に注ぐ湯川や沢から入るセシウムがほぼないことも影響しているようです。

 湖のセシウムを取り除く「除染」に国は消極的です。そもそも生物や環境に影響が出ないような形で、水の交換や泥の除去を行うのは21世紀の技術でも不可能です。

 私たちは中禅寺湖に入り込んだセシウムの線量が自然に下がるのを、ただ待つことしかできないのです。




グラバーメモ

■「自然の箱庭」奥日光