体験通じ広がる信頼の輪

 「食に関する正しい知識と判断力を身につける人を育む」食育基本法が施行されて1年が過ぎました。県内でも各地で農業体験を通して子どもたちに食べ物や命、地域社会のことを知り、考えてもらう食農教育がさまざまな形で進んでいます。農業を通じて地域に信頼の輪を広げようと、JAも生産農家や担当者が学校に出向くなどしてこの活動を支援しています。こうした中、農業体験学習会を開くなど年間を通じて、独自に食農教育を展開するJAも出てきました。各地の取り組みを紹介します。


JAはが野 組織生かしクラブ活動

 JAはが野は、事業所ごとに管内の児童を対象にした農業体験学習会を開いています。「JA、農家と消費者の距離を近づけよう」という職員提案制度がきっかけです。青壮年部や女性組織、各生産組織も協力。「食への関心を高めるいい機会」と、JAの組織力を生かした農業理解の輪が広がっています。

 同JAの取り組みは2002年から。児童を対象に未来ちゃんクラブ(本所)、ちゃぐりんクラブ(益子地区)を立ち上げました。

 「特定の作業をして終わりにするのでなく、生育の全ステージを体験してもらおう」と、そばの種まき、草刈り、収穫、そば打ちなどを体験しました。「命をはぐくむのが農業。最初から最後まで自分がきちんとかかわることが大切」(同JA総合企画部)との考えからです。

 ■ 口コミで人気拡大 ■

 04年からは「より密着した関係を目指そう」と、組織を1市5町の事業所単位に変更しました。

 青壮年部、女性組織、各生産部会などの協力を得て、それぞれの地域性に合わせさまざまな催しを展開しています。口コミで人気が広がり毎年定員を超える応募があります。今年のメンバーは全体で220人にのぼっています。

 真岡事業所では女性組織に加え耕種部会が協力。「食育指導士」の資格を持つ職員と一体になって農業理解を進めています。

 6月17日、真岡市京泉地区の水田に子どもたちの歓声が響き渡りました。この日は5月の田植え以来2回目の農業体験です。参加者は親子合わせて70人。5月に植えた苗がすくすくと成長しているのを確認した子どもたちは「早くお米にならないかな」とうれしそう。

 友人の紹介で今年から参加した猿山綾子さん(39)は「情報はあっても実際に農業を体験できる機会は少ない。米がどうやって出来るのかということや、農家の苦労を知るいい機会」と、ヤゴを捕まえて大喜びの3人の子どもたちを優しく見つめます。

 耕種部会真岡地区部会長の大塚克彦さん(60)は「生き生きと喜ぶ子どもの表情は何とも言えない。知り合いも増えた。継続することが大切」と、信頼の輪の広がりを説明します。その後、参加者は公民館に移り女性会メンバーらが用意したおにぎりで昼食。読み聞かせなどと合わせて楽しいひと時を過ごしました。

 ■ 心に刻む農業体験 ■

 活動を支えるスタッフはイベント開催に細心の注意を払っています。現場となる水田はあらかじめ下見をして空き缶などのゴミを清掃。鎌などの農具の使い方はもちろん、アレルギーを起こさないよう昼食の素材も徹底的に吟味しています。

 食育指導士の資格を持つ同事業所の佐藤玉江さんさんは「参加する子どもたちが、とにかく安全であること」と気配りを欠かしません。

 同JAの武田周三郎組合長は「生産農家と消費者の橋渡しをするのもJAの大切な使命。1年や2年で結果が出るものではない。肌で感じた農業体験は楽しい思い出として子どもたちの心に刻まれ、やがて、郷土への誇り、農業理解につながっていく」と話しています。

 [写真説明]5月の田植えに次いで2回目の会合。参加者は親子合わせて70人。真岡市京泉地区の水田に子供たちの歓声が響き渡りました


JAかみつが日光キッズクラブ 育てる苦労・喜び学ぶ

 2003年、JAかみつがは日光キッズクラブを立ち上げました。日光市内の子どもたちに農業体験を通じて豊かな人間性をはぐくんでもらおうと今年で4年目を迎えました。「募集して2日目で定員が埋まってしまいました」。事務局を務める同JAの佐々木弘子さんが広がる人気ぶりを説明します。

 今年は同市内12の学校から53人と保護者11人が入会しました。開校式は7月1日。同JA女性会長森山勝子さんの自宅で行いました。同JAの渋江正雄組合長が「学問も大切だが、心の教育も大切。1年を通じた体験で食の大切さを学んでください」と呼びかけました。

 今年のテーマは「アスパラガス」。この日は来年の収穫を目指して植え替え作業に挑戦しました。先生は同JAアスパラガス専門部会の吉原信夫さん(60)。「乾いたら忘れずに水をきちんとあげること。きちんと世話をすれば来年収穫できます」。吉原さんの説明に子どもたちは目を輝かせます。

 柏木典子さん(39)と海紀(みこと)君(8)親子は今年初めての参加。典子さんは「育てる苦労や喜び、友だちつきあいなど、学校では経験できないいろんなことが勉強できる」と、海紀君に優しいまなざしを送ります。

 その後、森山さんらのアドバイスを受けながらジャガイモ掘りも体験。昼食は女性会メンバーが用意したニラ入りすいとん。初めて顔を合わせた子どもたちですが、あっという間に仲良くなり学校のことなどを話しながら残さず平らげました。帰り際、「ありがとうございました」。はつらつとした子どもたちの声にスタッフの顔もほころびます。

 日光市教育委員会学校教育課の前波真一課長は「時間や、ほ場など学校での取り組みには自ずと制約がある。農家の皆さんから生産の実体験を学べるのはとてもありがたいこと」とクラブの活動に期待しています。

 次回は8月。吉原さんのほ場で収穫などの体験をする予定です。

 [写真説明]アスパラガスの植え替えに挑戦する親子


JAなすのなっちゃんクラブ 地元の作物を再認識

 JAなすのの「なっちゃんクラブ」による「大豆の種まき」が、6月25日、大田原市蛭田の畑で行われました。同クラブは一般住民を対象に、農作業体験などを通じて農業や食への理解を深めてもらうもので、今年で3年目です。

 好天に恵まれたこの日、会場となる蜂巣耕平さん(59)の畑に、親子連れ約50人が集まりました。作業を前に蜂巣さんが「国内で消費される97%は輸入大豆。国内産、特に地元の農産物は味が違います。きょうは作業を通して少しでも農業への理解を深めてください」とあいさつ。家族ごとに2本ずつの畦(うね)を担当、約20アールの畑に約1時間をかけて種をまきました。収穫時期まで蜂巣さんが管理します。11月3日に刈り取り、みんなで豆腐を作って味わう計画です。

 作業後に参加者は、近くの集落センターで「長~いのり巻き寿司づくり」に挑戦。2列に分かれ力を合わせて巻きすを巻き、3メートルほどもある長いのり巻きが完成すると、大きな歓声が上がりました。

 坂本江里子さん(34)、優夏さん(8)親子と、室井真由美さん(35)、萌奈美さん(5)親子は、お母さん同士が姉妹。最初の年から参加しています。優夏さんは「種まきは初めて。疲れたけどおもしろかった。地元にこんな作物があったのかと再認識しています」とにっこり。12月まで毎月、さまざまな農業体験を予定しています。

 [写真説明]農作業の後、「長~いのり巻き」づくりに挑戦


JAの食農教育 JA栃木中央会会長 豊田計 食物への感謝の心育てる

 相手に対する思いやりや、感謝の気持ちといった豊かな人間性を養うのには、自然とのふれあいが欠かせません。

 しかし、今や農家でさえも農業生産の現場や作業の実態を知らない子供が増えているのが実情です。農村の原風景を知り、生き物を見て、さわって、農作業も含めて作物がどのように育ち、どんな経過を経て口に入ってくるのか、体験を持って知ることはとても大切なことです。

 「成長した後に、食べられる」という命の連鎖を実感することで、「いただきます」という食べ物に対する感謝の気持ちがはぐくまれるからです。

 当然のことながら農業への理解の度合いも高まるはずです。

 こうした中、昨年7月に食育基本法が施行されたのは誠に喜ばしいことです。

 県内でも、生産農家のみなさんやJAなどが農業体験の受け入れに取り組んでおりますが、まだまだ点的な状況です。

 食育基本法では健全な食生活を実践できる人間を育てるために、関係機関が力を合わせて国民的な運動を展開することを求めています。

 農業が地域性を持つだけに、一元的なマニュアル作りは難しいと思いますが、JAグループ一丸となって農業を通じた信頼の輪を広げて参りたいと考えております。


◇◆◇ 食育の現場 ◇◆◇私からもひとこと 農業をより身近なものに

JAうつのみや青壮年部 河内支部長 菱沼延明さん(45)


 河内支部では毎年数回、小学2年生と5年生を対象に「稲作体験」活動を行っています。「食育」という視点が生まれたのはここ3、4年のことと思いますが、私たちは十数年前から生産農家の協力を得て子どもたちに土に親しむ機会を提供し続けています。また近年は、子どもたちだけでなくお母さんたちにもおにぎりパーティーなどを通して農作物への理解をより一層深めてもらおうと取り組んでいます。

 河内支部だけでも、これまで延べ3000人以上の小学生と活動を通して触れ合ってきました。食育というと、堅苦しく考えがちですが、子どもたちには、農業を身近なものとしてとらえ、常日ごろから田んぼに目を向けて関心を持ってもらえればと思っています。