那珂川町にアトリエを構え、日本現代美術界の第一線で活躍を続ける画家渡辺豊重(わたなべとよしげ)さんの近作を集めた企画展「もうひとつの渡辺豊重」が12月11日まで、同町のもうひとつの美術館で開かれている。自分の中にある「怒り」を表現しようとした「鬼」シリーズやその後の「動刻」シリーズなど、新作を含め約60点を展示。自然に囲まれたアトリエで生まれた作品が、木造の廃校校舎を利用した同館の温かみのある空間で存在感を放っている。

 渡辺さんは1931年東京都生まれ。85歳となった現在も意欲的に作品を制作している。

 「鬼」シリーズは、社会の矛盾に対する怒りを表現している。松煙などを使った黒色で大胆な形を描いた作品からは恐ろしさを感じるが、同館の梶原紀子(かじはらのりこ)館長は「クリティカルな意味だけでなく、おどけているものもあり、いつもどこかにしなやかさがある」と解説する。

 東日本大震災の後に発表された「動刻」シリーズは、黒や赤の力強い色合いが目立つ。「動刻」(2016年)は木の端材をかすがいで組み合わせており、赤の背景には渦巻きが描かれている。

「鬼」シリーズを描き、作品にすることで怒りが沈静化していく感覚があり、「動刻」シリーズへと移っていった。渡辺さんは「動刻は動きを刻むという意味。作品を作るということは、時代をつかんで刻んでいくということ」と話している。