大田原市の自宅で10月、夫が妻の首を切り付けて殺害したとされる事件。殺人容疑で逮捕された同市、無職男=当時(72)=は逮捕から16日後の今月1日、転移性がんで死亡した。余命1カ月-。自らの最期に向け療養環境を整え、介護が必要な妻の入所施設も決めた直後の事件だった。「死期が近いのを悟って、心も弱っていたのか」。関係者は今もやりきれなさを抱えている。

 「見てけろ」

 10月16日朝。連絡を受けた70代の親族男性が駆け付けると、自宅室内で立ち尽くした容疑者はそうつぶやいたという。寝室のベッドには妻=当時(61)=が首から血を流して横たわっていた。

 「俺、やっちゃったんだ」。自殺を考えたのか、納屋の梁(はり)にはロープが掛かっていたという。

 ■20年前から

 夫婦2人暮らしで、腰が悪い妻は20年ほど前から、夫の介助を頼りにしてきた。

 その夫に大腸がんが見つかったのは3年半前。転移と手術の繰り返し。肝臓が悪化すると投薬治療もできず、事件の数日前、入院していた県北の病院から自宅に戻った。

 「どうすっぺ」。困惑する様子は、親族男性には鬱(うつ)状態とも映った。「人の世話になるなんて申し訳ない。安楽死させてくれ」とこぼしたという。

 それでも親族や在宅ケアのスタッフらと、自らの在宅医や妻が入る施設も決めた。その3日後の10月16日未明ごろ、寝ていた妻の首を包丁で切り付けたとされる。

 ■行く末案じ

 「あともって1カ月です」。逮捕翌日、病院に呼ばれた親族は容疑者の余命を宣告された。本人には伝えていなかったという。

 大田原署に留置された容疑者は逮捕の8日後、腹痛を訴えて再び入院。今月1日、容体は急変した。「夫婦の行く末を案じた」。逮捕時はそう供述していたが、調べは核心まで至らなかった。

 面会した親族男性には「憎くてやったわけじゃない」と繰り返したという。別の親族は「多くの人が支援し、孤独ではなかったはず。がんで弱った本人には届かなかったのかもしれないが…」と途方に暮れた。